炎症性腸疾患とは
免疫異常から免疫細胞が自分の腸の細胞を攻撃して炎症が起きる病気の総称です。潰瘍性大腸炎とクローン病があります。原因はよくわかっておらず、どちらも難病指定されています。比較的若い人に発症しやすく、寛解期と再燃期を繰り返します。今のところ根治は難しく、寛解期でも治療を継続していく必要があります。
潰瘍性大腸炎は、主に大腸に炎症によるびらんや浅い潰瘍ができます。クローン病による炎症は小腸や大腸によく見られますが、口から肛門まで消化管のどの部位にも炎症を起こし、深い潰瘍ができるのが特徴です。
症状を悪化させる食物などもあり、食事制限などが必要ですので、しっかりとした診断を受け継続的に治療を続けることが大切です。
潰瘍性大腸炎
症状
下痢から始まり、だんだんと便がゆるくなっていきます。進行すると粘液の混じった粘血便、膿も混ざった粘血膿便が出ることがあります。痙攣性の腹痛をおこし、頻繁に便意をもよおすようになります。さらに病気が進むと、発熱し、体重の減少や貧血などがあらわれます。合併症は皮膚、眼、関節にも現れることがあり、とくに膝や足首の関節炎がよく見られます。また、子どもでは栄養吸収が悪くなって成長障害をきたすこともあります。
診断
症状が、感染性の大腸炎をはじめとした他の大腸疾患やクローン病などとよく似ているため、鑑別が重要になります。診察では血液検査や便検査なども行いますが、潰瘍性大腸炎であることを確実に特定するためには大腸カメラ検査が必須です。
治療
寛解期と再燃期を繰り返す病気で、今のところ根治は難しく、寛解期でも治療を継続し症状をコントロールしていくのが治療の目標です。治療には、内服治療、坐薬や注入療法、ステロイド治療、免疫調整薬、血液成分除去療法などがありますが、内科的治療が無効な場合や下記のような状況では外科的治療を考慮します。
外科的治療
ほとんどの症例では薬物療法による内科的治療でコントロールが可能ですが、以下のような症例では外科的な治療(手術)を検討することがあります。
- 大量の出血がある
- 腸内にガスが大量にたまりすぎて毒素が全身にまわる
- 大腸の穿孔がある
- がん化やその疑いがある(後述)
- 内科的治療の効果が無効である
- ステロイド治療ができない
潰瘍性大腸炎の手術は、大腸の全摘出になります。肛門温存の可否によってQOL(生活の質)が大きく左右されます。外科的治療が必要になった場合は、信頼できる病院にご紹介させていただきます。
潰瘍性大腸炎と大腸がん
潰瘍性大腸炎はがん化することがある病気といわれています。とくに直腸から大腸全体へと炎症がある全大腸炎型の方が、発症から10年以上経過すると大腸がんの発症率が高くなるため、定期的な大腸カメラ検査が必要になります。
クローン病
原因
免疫の異常が原因ではないかと考えられています。遺伝的要素の関与だけでなく、食事、細菌やウイルスなどの抗原などの環境因子の関与も疑われています。
症状
軽い腹部の一時的な痛みから始まります。狭窄があると便が通過する際に、強い痛みを感じます。小腸に潰瘍ができたときには、下痢や血便をともないます。寝ていても下痢で目が覚めることがあります。進行すると、痙攣性の腹痛、炎症による発熱(腹部に膿がたまった膿瘍があると高熱が出ます)、消化吸収の阻害による栄養失調や体重減少などが代表的なものです。
合併症には、腸閉塞、腸管穿孔、腹部膿瘍、裂肛、痔瘻、結腸がんなどがあり、また腸以外への合併症として、胆石、尿路感染症、腎結石、関節炎などが見られることがあります。
診断
クローン病は、潰瘍性大腸炎や感染性腸炎、ベーチェット病などとの鑑別が重要です。正確な診断は血液検査、便検査、腹部超音波検査、消化管造影、内視鏡検査などを総合して行います。とくに消化管造影と内視鏡検査は重要です。
治療
潰瘍性大腸炎と同様に、寛解期と再燃期を繰り返す病気で、今のところ根治は難しく、寛解期でも治療を継続し症状をコントロールしていくのが治療の目標です。
治療には、内服治療、ステロイド治療、免疫調整薬、血液成分除去療法などがありますが、潰瘍性大腸炎と異なり、食事により病状に影響を与えることから栄養療法(場合によっては経腸栄養療法)も必要です。
狭窄症状が強い場合には、内視鏡的バルーン拡張術が適応になりますが、内科的治療が無効な場合には外科的治療を考慮します。
栄養療法
症状が出ているときには、免疫反応を起こしている食物を消化管から取り除かなければなりません。そこで、鼻からチューブを通して直接十二指腸に体に必要な栄養を注入する経腸栄養法と、カテーテルで静脈に静脈経由で栄養を注入する完全中心静脈栄養法があります。経腸栄養法で注入する栄養剤には成分等の違いなどで種類があり、患者さんの症状や状態に合わせて使用します。
外科的治療
有症状の狭窄や内科的治療が無効な場合、瘻孔、穿孔、大量出血や膿瘍、がんの疑いがある場合には手術治療を検討します。腸管をできるだけ温存するために、小範囲の切除や狭窄形成術などが行われます